基盤研究(B)一般
 中国古代戦国期における楚文化の学際的研究

中原楚文化プロジェクトの研究成果

2009年度

研究成果の概要

  初年度は書籍の購入など環境整備に努める一方、国際学会等への参加によって国際共同研究実施への地ならしを行った。まず石川が5月に蘇州大学・浙江大学・上海大学・清華大学・北京語言大学で学術交流や講演を行い、10月には中国・深圳にて開かれた楚辞国際学術研討会に大野・石川と野田雄史・矢田尚子・中村貴・田島花野(以上4名は協力者)が出席して、次の成果を発表した。

  1. 文献資料研究
     「九章」諸篇に見られる、従来屈原と解されてきた主人公の彷徨に「離騒」「九歌」等と同様の宗教的な要素が多分に見られることを論じた(大野)。これまで研究の少ない「卜居」を、その問答形式に注目して分析した(矢田「関于《卜居》鄭詹尹的台詞」)。『左伝』と『楚辞』に見える「強死(非命の死)」を、楚の巫風との関係から論じた(中村「楚人与《楚辞》中的“強死”研究」)。
  2. 出土資料研究
     王逸『楚辞章句』の注釈研究である黄霊庚『楚辞章句疏証』について、出土資料研究の立場から批評を加えた。(石川)
  3. 新しい研究手法の模索
     中原と楚の詩型の違いを、松浦リズム論の観点から考察した(野田「從松浦節奏論觀點探討楚辭諸篇的節奏」)。「招魂」「大招」に描かれる事物や畳韻字による表現を計量的に分析した(田島「関于《招魂》与《大招》的四方描写」)。

 この他、谷口は「九歌」との関連が考えられる郊祀歌十九章(『漢書』禮楽志)の訳注を作成し、全体の半ば近くまで進んだ。また澁澤は準備作業として、武田科学振興財団・杏雨書屋にて敦煌文書を含む本草学・医学関連書の調査を行った。田宮は後漢王逸『楚辞章句』の考察から導き出した「離騒」テーマ語彙について、朱熹『楚辞後語』をテクストに検索作業を進めた。研究協力者・吉冨透は石川と共に北京大学蔵漢簡に見える楚文化及び道家との関連性から、『楚辞』の再考に及ばねばならないことを指摘し、また上博楚簡『容成氏』と「天問」との比較研究を進めている。

研究成果

2010年度

研究成果の概要

 昨年度は全体の活動として、海外研究協力者である黄霊庚・湯漳平・徐志嘯の3氏を日本に招聘し、12月1日の富山大学におけるシンポジウム及び12月4日の東京大学における中国出土資料学会において講演を依頼し、会議及びその前後の期間において学術交流を行なった。

 メンバー個別の活動は次の通りである。

  1. 伝世資料から見た楚文化と中原文化
     谷口は、漢郊祀歌十九章を「九歌」との関連に注意しながら読解し、全体の約4分の3について訳注を作成するとともに、その成立についてメンバーと意見を交換した。大野は、『史記』に残された伯夷の歌が『楚辞』懐沙と形式内容の両面で共通点をもつ等、中原の歌謡と『楚辞』の距離が従来思われていたほど遠くはないことを指摘した。研究協力者・矢田尚子は、これまで研究の少ない「漁父」を取り上げ、そこに描き出された屈原像について考察した。 研究協力者・中村貴は、地域空間としての“荊楚”について、『荊楚歳時記』に拠りながら族名・国名から地域名称への史的変遷を踏まえて考察した。
  2. 出土資料から見た楚文化と中原文化
     石川は、古代楚王国の天命招来問題の文学的来源は春秋末成立の天問篇の「帝詞」であり、楚辞諸篇が政治的な作品であることを突き止めた(発表予定の学会が東日本大震災で延期のため未発表)。研究協力者・吉冨透は、『楚辞』・戦国楚簡・上博楚簡『三徳』の比較検討により楚文化の特徴を考察し、また楚簡『容成氏』と漢代経学の問題を考察した。
  3. 『楚辞』研究の新手法
     田宮は、後漢王逸『楚辞章句』全巻についての考察をまとめ、『楚辞章句』が提示する屈原イメージの祖型を確認した。研究協力者・田島花野は、招魂篇と大招篇に共通する東西南北の四方描写を、品詞や表現の具体性に着目して比較検討した。研究協力者・野田雄史は、楚辞諸篇の特殊な押韻法による分析の集大成として、全体の押韻状況を検討した。

研究成果

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